「はは……私を撃つなど……できるわけないだろう……」
矛盾×交差
「私が死ねば……どうなるか分かっているのだろう?」
対峙。
片方は闇を纏いし男、ガンテッド。
最強であり最凶の犯罪者集団『篝火』のリーダーにして、片時も隙を見せ付けない寡黙な男。
片方は、某大手金融会社社長・カネナリ。
高級な衣服に身を包み、時折覗く金の入れ歯が光り輝いている。
しかしこの状況は、金やダイヤを積んででも脱出することは困難であった。
ガンテッド。片手に黒銃。
カネナリ。背後に壁。
「あぁ、分かっているさ」
「だったら、その銃を降ろしたまえ……」
ガンテッドは石のように、自らの体勢を変えない。
カネナリは、必死の説得を試みる。
「私が死ねば世界の秩序は乱れ、哀れな人民が増える事になるぞ?」
「分かっている」
カネナリは固い笑顔を保ちつつ、後ろへと後ずさる。
しかし壁に背中がぶつかり、止まった。
「分かっているからこそ――」
「ひっ」
ガンテッドは、引き金に力を込める。
「世界はお前の死を、欲している」
社長室に、銃声が鳴り響いた。
短い断末魔と共に、社長カネナリは命を絶った。
額に穴が空き、脳漿と血が噴き出る。
「違法金融会社社長カネナリ、抹消せり……」
ガンテッドは静かに銃を大きな窓に向け、引き金を引いた。
次の瞬間には窓に大きな亀裂が入り、音を立てて窓が破壊された。
するとタイミングを計ったように喧しい羽音を立ててヘリコプターが割れた窓の向こう側に現われた。
中に乗っているのは、篝火のメンバーの三人である。
操縦しているのはカノンだった。
「よぉ、終わったんならさっさとズラかるぜ」
「トビウツレ、ガンテッド!」
ガンテッドは首だけで合図し、窓側へ歩み寄る。
その時社長室の扉が大きく開け放され、銃を持った三人の警備員が転がるように中へと入ってきた。
「止まれお前達!我々には射殺許可が下りている!」
警備員は腰の銃を取り出し、一斉に銃口をヘリとガンテッドへ向ける。
ガンテッドの表情は依然、変わらない。
「お前達に、撃てるか?」
「う……撃つぞ!」
「そうか」
その瞬間、両脇の警備員二人が仰向けに床へ倒れた。
カネナリと同じく、額に銃弾を受けて即、絶命していた。
その間、約1.3秒。
「ひゃ、ひゃあ……!」
「お前も、逝くのか?」
ガンテッドは両手に、煙の立ち昇る銃を二つ構えていた。
中心にいた警備員は腰を抜かし、そのまま後ろへ下がっていく。
「……た、助け……!」
遂に警備員は逃げ出してしまった。
ガンテッドは追う素振りも見せず窓の方へ体を向け、ヘリへ一ッ跳びで飛び移る。
ヘリはその瞬間に上昇し、ビルから遠くへと飛び去っていった。
「……」
ガンテッドはヘリから身を乗り出して先程のビルを見てみる。
ビルの下には何台ものパトカーが止まっており、沢山の野次馬がこのヘリを見上げていた。
「ソノヘンニシテオケ、ガンテッド。フリオトサレルゾ」
「あぁ、そろそろ戻るよ」
中で立華刀を研いでいたビリーが、ギリギリまで身を乗り出していたガンテッドに一言忠告をうしながす。
ガンテッドは素直に応答し、中の椅子へと腰掛けた。
隣に座っていた少女、リプトがそれに反応し、ガンテッドの方向を向いて無邪気に笑いかける。
「今日はお手柄だったね、ガンテッド!」
「ありがとう、リプト。所でこのヘリはどこから?」
「パクッタ。キタイバンゴウデ、バレルトイケナイカラ、アトデテキトウニ、ステル」
ヘリは完全にビルから遠ざかる。
時折聞こえたサイレンの唸り声も聞こえなくなる。
「はっ、テメェもよくここまで抵抗無く命奪えたもんだ。恐ろしいぜ、無感情な殺人鬼さんよ」
ガンテッドを皮肉交じりに馬鹿にした後、人の事は言えないけどな、とカノンが笑った。
リプトがその言葉にカチンと来たのか、身を乗り出してカノンに抗議する。
「ちょっとー!そんな言い方って……」
「うっせーな。墜落させんぞ」
「いいんだリプト。……本当の事だ」
リプトが心配そうな顔でガンテッドの顔を覗き込む。
と言っても、今の彼女には表情まで読み取ることは出来ない。
「……だが俺だって、誰彼構わず人を殺めている訳では、無いんだ……」
ガンテッドはそれだけ言うとすまない、と一言付け加えて椅子で眠りにつく。
それっきりヘリの中は無音になり、いつしかビリーとリプトまで眠りについた。
一瞬つられてカノンまで眠りそうになったが、傾いたヘリに飛び起きたビリーの拳によって強制送還されたのは言うまでも無い。
「俺達は篝火。政治家パウラーを、消しに来た」
今日も彼らは、矛盾と葛藤の中で生き続ける。
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